仙台高等裁判所秋田支部 昭和53年(く)1号 決定 1978年3月08日
主文
原決定を取り消す。
理由
本件各抗告の趣旨及び理由は、被疑者太田信雄につき弁護人有正二朗、同深井昭二、同大熊政一共同名義の、被疑者阿部信勇につき弁護人有正二朗、同徳住堅治共同名義の各抗告申立書に記載のとおりであるから、これらをここに引用する。
所論はまず、起訴前の勾留に関する処分は刑訴法二〇七条により、裁判所でなく裁判官が取り扱うべきものとされており、勾留取消に関する決定も同条の処分に含まれることはいうまでもないところ、原決定は合議体としての秋田地方裁判所がこれをなしており、明らかに同条に違反する、と主張する。
よって記録を調査すると、被疑者太田信雄、同阿部信勇に対し秋田地方裁判所裁判官中野哲弘が昭和五三年二月二六日なした勾留の裁判に対し、右被疑者両名の弁護人からそれぞれ勾留取消の申立がなされたところ、原裁判所は右各申立につき、昭和五三年三月六日合議体をもって「本件を当裁判所の合議体をもって審判する」と決定し、併合決定のうえ、同日秋田地方裁判所の合議体として、「本件請求はいずれもこれを却下する」として決定により右各請求を却下したことが認められる。
ところで裁判所法二六条二項において合議体で審理及び裁判をする旨を合議体でした事件は合議体で取り扱う旨定められているが、同項但書において、「法廷ですべき審理及裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定があるときは、その定に従う。」と規定されているところ、刑訴法二〇七条によれば、起訴前の勾留に関する処分は裁判官がこれを行う旨定められ、その趣旨は裁判所ではなく、同事件を受理した裁判所の裁判官が単独で審理処分すべきものと定めたものと解すべく、したがって同条は裁判所法二六条二項但書にいう「特別の定」に当るというべきである。そうとすればこれを合議体で審判した原決定は右規定に違反し、右の瑕疵はその不服方法の差異等にかんがみると重大であり、取り消しを免れない。論旨は理由がある。
よって刑訴法四二六条二項にしたがい原決定を取り消すこととし、なお本請求については原裁判所の裁判官が、捜査記録等も充分調査のうえ改めて決定すべきもので、当審において更に裁判するのは相当でないので、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 野口喜藏 裁判官 吉本俊雄 相良朋紀)